第092号 「アイデンティティの確立とその成り立ち」第二回

さて、前回はアイデンティティ「自己認識」・・「自分に対する意識の持ち方」のはじまりは、乳児期からの母親と子供との間に生ずる絆の在り方が基礎になることをお伝えしました。
人間が健全に生存するため、本能として無意識的に湧き上がる、動物的な知恵としての心のスタート地点です。
理論、理屈で説明できる要素のものではありません。
生命体として持つ視覚・触覚・聴覚・味覚・嗅覚の五感機能が感覚的に働き、日常生活の中で繰り返し体験される中で、自動反応的に確立されていくものです。
これはプライミング記憶(先行記憶)と言いますが、一度体験したことは無意識のうちに印象として残し、脳の中に取り込まれます。喜び・悲しみ・恐れ・怒りなどの基本感情とともに記憶され、身体的にも歩行や運動能力が強化されていきます。
幼児中期を迎える3歳の頃にもなると、言葉もはっきりと意思表示できるようになり、自分や周りの人や環境を意識的に感じる「自我」として強化されます。
「私は私である」ことを主張し、母親から分離していきます。
自己中心性を主体的に発揮する、いわゆる第一反抗期といわれる頃を迎えるのです。
自我がどのように強化されていくかはそれぞれ個性があり、同じ体験をしたからといって同じような性格や心になるということではありません。
スイスの深層心理学者カール・ユング博士やドイツのクレッチマー博士の性格基本理論によれば、生まれつき内向的なタイプ・外交的なタイプがあり、遺伝的な体系の違いから、先天的に物事の捉え方の違いがあり、性格や対応行動の違いがあるという説明があります。(遺伝的考察論)
もう一つは、私たちの家族構成と自分の置かれた立場による意識の違いです。
例えば、長男や長女の場合、当面は親の愛情を独占することができます。両親の関わり方が影響を及ぼします。
一般的には安心・満足の境地で過ごせますが、第二子が生まれるとそうはいきません。
母親の愛情は半分になるか、一時的に愛情の停止が起こるかもしれません。
そんなとき悲しみや怒り、認めたくない欲求不満が起こり、弟や妹に対する攻撃的な心境が生じ、子供なりの葛藤が生じて否定的になり、環境に適応できず、不安感が増大し、自信を失う体験となるかもしれません。(環境的考察論)
しかし、そんなとき幼児はとても知恵者です。
受け入れがたい感情を「意識から締め出し」「無意識の中に閉じ込めて本心を出さないようにする」心理を働かせます。
これを「抑圧」といい、「自我の防衛機制」と言います。
本能的に自己を守り環境に適応する方法を選ぶのです。
「素直ないい子」としてふるまうよう努力をするか、その一方で「おねしょ」をして親を困らせるか何らかの方法で関心を引こうとすることもあるでしょう。
いずれにしても一人前の大人になり「自己認識・自分らしさ」を確立するまでには、これから多難な道のりがあるのです。
次回をお待ちください。

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