第095号 「アイデンティティの確立とその成り立ち」第三回
さて、前回までは幼児と母親の関係の重要性について述べさせて頂きました。今回は「子供と父親の関わり」についても考えてみたく思います。 深層心理学の創始者と言われるフロイトは、心の発達について「エス」「自我」「超自我」の3つの要素で表現しています。
エスとは、人間が本能としてもつ心的エネルギーを表す定義で、生命力とも言えるかもしれません。私たちは食欲や睡眠など自然な身体の欲求によって行動しながら恒常的に生命を維持します。人格や性格を形成する際、乳・幼児期に、こうした無意識的な心身の欲求が快的に満たされ、生命が保証されると満足感に満ちて、安心感や自己信頼感につながり、自発的な行動ができるようになっていきます。TA研修のエゴグラムではフリーチャイルド(FC)にあたります。どちらかと言えばFCは不快な状況を嫌がるエネルギーです。お母さんとしてこのような関わりができれば、子供にとって居心地が良いことは間違いありません。
しかし、このエネルギーだけで大人として成長したらどんな人になるでしょうか。楽観的で衝動性の強い、規則や約束などお構いなし、周りへの配慮に欠ける、大人としての現実認識が足りない人になりかねません。そこでお父さんの存在がとても重要になります。優しく見守ってくれる母親に対して、時折は厳しく躾・教育・指導してくれる父親の存在が必要なのです。お母さんも厳しさは持ちますが、4歳~5歳のころには「男根期」と呼ばれ、「性的好奇心」が芽生えるときを迎えます。そして自己愛感情を満たすために親に関心を向け、積極的に関わろうとします。そのとき異性の親に対する一種の「あこがれ」から、同性の親に対しては、「尊敬と共に、敵対する感情を持つ」といわれます。しかし、当然親に抵抗することはできず、無意識の内に心の中にしまいこんで忘れようと努力するのです。この抑圧した心理をエディプスコンプレックスと言いますが、本格的に異性に対する精神活動が開始される思春期の頃までは、何事もなかったかのように潜伏させると言われます。両親が揃って健全にバランス良く関わってこそ、異性に対しても性格的に健全に顕在化してくるものと思われます。
現代は両親ともに忙しく、お母さんだけでなく、特にお父さん不在の家庭が多くなってきたと言われます。悪質な犯罪が多くなってきた昨今ですが、父親の出番が少なくなり、ストレスの多い社会環境に対する忍耐心、いわゆるストレス耐性が弱くなり、わがまま、自己中心的、本能的な「エス」の心が強く働き、社会的な価値観を持つ心的エネルギー「超自我」(倫理・道徳を重んじる心)良心に導かれた理想、信念が弱く、「世のため、人のため」の志や目標に向かう心が希薄で、自己規制が保てなくなっていること、そして、現状の立場・役割・責任に気づき、状況に応じて検討・判断し適切に対処していく、理性的に役割を果たす健全な「自我」が弱くなったためと思われます。健全なアイデンティティの確立を図るには、このようにお父さんの役割と責任がとても重要なのです。
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