第134号 モチベーションを上げるには?
第123号と第129号のワンポイントアドバイスでは、金銭的報酬でモチベーションを上げることはできないことをお伝えしました。金銭的報酬はとても大切な要素ですが、それだけではモチベーションを上げることはできず、場合によってはモチベーションを低下させてしまうことがあることを見ていきました。
モチベーションには、大きく分けると2つのタイプがあります。数か月というスパンでの短期的なモチベーション、数年単位の中長期的なモチベーション、の2つです。神戸大学の金井教授は、スパンによってモチベーション・コミットメント・キャリアと3つに区分していますが、ここでは分かりやすいように2つに分けて考えていきたいと思います。区分する理由は、それぞれにモチベーションを高める要因が異なるからです。
短期的なモチベーションを高める主な要因は、簡単に言えば「仕事そのものを楽しめる」ということです。これは、仕事が「楽(らく)」ということではありません。周りの人からは大変ハードな状況にあっても、仕事を楽しんでいる方はたくさんいます。要は、ご本人が仕事を楽しんでいるか、ということです。
中長期的なモチベーションを高める主な要因は、「仕事が人生目標と合致している」ということです。経営者(特に創業経営者)がモチベーションを高く維持できるのは、「仕事=自分の人生」だからです。逆に、「人生における目標が定まっていない」「自分のやりたいことと今の仕事にギャップがある」などの状態では、中長期的にモチベーションを高く維持することは困難となります。
今回のワンポイントアドバイスでは短期的なモチベーションについて扱い、次回に中長期的なモチベーションを扱っていきたいと思います。
短期的なモチベーションを高める大きな要因は、「仕事を楽しんでいる」ということです。つまり、外からの刺激ではなく、自分の内から湧いてくる興味や喜び、達成感や充実感などが大きく影響するということです。第123号でもご紹介した通り、外からの刺激による動機づけを「外発的動機づけ」、内からの動機づけを「内発的動機づけ」と呼びます。短期的なモチベーションを高めるには、内発的動機づけが必要となるのです。
内発的動機づけは非常に分かりづらく、実際にどのような行動や施策が内発的動機づけを高めるのかは、断定的に言えるようなものではありません。それとは逆に、外発的動機づけは直感的に分かりやすく、具体的な施策にも落とし込みやすいと言えます。ですので、科学の世界では外発的動機づけが逆効果になることが多いと実証されていても、経営の現場では外発的動機づけによる施策が繰り返されてきました。内発的動機づけについて、比較的分かりやすく説明してくれているのが、「フロー理論」です。
フロー理論は、心理学者のミハイ・チクセントミハイ氏が構築した理論で、スポーツの世界ではパフォーマンス向上のための理論体系として認知されています。「フロー」を簡単に言うと、寝食を忘れるほど没頭している状態を指しますが、フロー状態になったときにはスポーツだけではなく仕事のパフォーマンスも向上することは直感的に分かると思います。
チクセントミハイ氏はフローが生じる条件として、①構造化された活動、②フローを生じさせる個人の能力、を挙げています。順に説明していきます。
一つ目の、構造化された活動とは、一言でいえば「やりがいのある仕事」ということです。その主な要素としては、
● 挑戦と成長の機会を含んだ仕事であること
● 能力を十分に発揮できる仕事であること
● 単に大きな仕事の切れ端ではなく、一つのまとまった完結性を有している仕事であること
● 仕事を進めるうえでの自由と責任が付与されていること
● 社会貢献につながっているという誇りや満足感を感じられる仕事であること
2つ目の、フローを生じさせる個人の能力の主な要素としては、
● その仕事を成功させることができるだけの能力を持っていること
● 自己目的的パーソナリティを有していること
「仕事を成功させることができる能力」については、容易に想像がつくと思います。自分が絶対にできない仕事に没頭することは困難です。
「自己目的的パーソナリティ」という言葉は馴染みがないかもしれませんが、一言でいえば「何でも楽しめる性質」ということです。外部からの報酬などを目的とするのではなく、自己の内面を目的とできる性質ということです。
私は、この「自己目的的パーソナリティ」こそが、最も重要な要素であると考えています。なぜなら、私たちが仕事をするなかでは、構造化されていない仕事をしなければならないことも多く、また全く経験のないことも行なわなければならない場面もあるからです。どんな仕事でもそこに意義を見い出し、自分の成長につなげていくことによって、仕事のなかに充実感や達成感が生まれ、そして自己成長につながるのです。ですから、日創研は「気づき」の能力を重要視しているのです。
チクセントミハイ氏は「無秩序から秩序を引き出す能力」と表現していますが、マイナスの状況に置かれても、それを自分のなかでプラスのエネルギーに変えられる力が自己目的的パーソナリティです。この能力は、仕事だけではなく人が生きていくうえでも非常に大切な能力です。
しかし、だからと言って他の要素が必要ないということではありません。社員さまが仕事に没頭できるような環境を整えることは、経営者・上司の責務です。それができていないということは、経営者・上司としての仕事をしていないと言えるでしょう。
まとめると、短期的なモチベーションを高めるためには、仕事そのものをモチベーションが高まるように構造化し、かつ、社員さまが「自己目的的パーソナリティ」を身につけるように人材育成するという、2つの取り組みを同時に行なっていく必要があります。この2つの視点で、自社の現状を振り返ってみてはいかがでしょうか?
次回の私が担当するワンポイントアドバイスでは、中長期的なモチベーションについて扱ってまいります。
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