第151号 「さとり世代」の育成法

前回の私のワンポイント・アドバイスでは、新入社員のやる気を削ぐ禁句集について扱いました。今回はそれに引き続き、若手社員、特に「さとり世代」と言われる世代をどのように育てるかについて扱っていきたいと思います。

■「さとり世代」とは?


企業の教育担当者とお話をしていると、「ミドル・マネジメントの育成」「高年齢者の活用」「女性社員の教育」、そして今回のテーマである「若手社員の育成」が話題としてよく出てきます。ここ最近では、「ゆとり世代」ならぬ「さとり世代」という言葉を聞くようになりました。
「さとり世代」とは、10代から20代前半の若者を指す言葉として登場しました。一般的に言われる「さとり世代」の傾向としては、次のようなものがあります。
①車やブランド品などの物欲がない
②お金への執着がなく、昇進や昇格などに興味がない
③お酒を飲まない、パチンコなどの賭け事をしない
④高い夢や目標を追わないので、覇気がないように映る
⑤主な情報源はインターネットである
⑥読書が好きで物知りな一面もある
若手社員の育成は企業の長期的重要課題ですので、さとり世代のように育成が難しいと思われる世代であっても、育成をおろそかにするわけにはいきません。そこで、今回はさとり世代の育成をテーマとしますが、本題に入る前に申し上げたいことがあります。

■「さとり世代」を育てる3つのステップ


私個人としては、ある世代を一括りにして論じることは、あまりに乱暴だと思っています。特に若い世代に関しては、いつの時代も「理解不能」の対象にされてしまうものなのです。「最近の若者は…」というフレーズを、人類ははるか昔から使ってきました。古代ギリシャや紀元前の書簡にも、そのような記述があるそうです。つまり、どの時代にもジェネレーションギャップが存在するということです。
私は職業柄、若者と話す機会がよくありますが、さとり世代の特徴として挙げた前述の傾向を確かに感じることがあります。しかし一方では、起業家精神にあふれた意欲的な若者も少数ではありますが存在していますので、傾向を一概に断定することはできないという思いがあります。十把一絡げにはできないという前提で、一般的に認識されているさとり世代を育成する方法について、述べていきたいと思います。
さとり世代を育成するためには、次の3つのステップを順に踏むことが大切です。
1:本音を言いやすい環境をつくる
2:貢献感を持たせ、小さな達成感を積み上げる
3:自主性が出てきたら、徐々に大きな責任を与える

■ステップ1:本音を言いやすい環境をつくる


さとり世代は主体的に行動する傾向が低いので、能力が低いという印象を受けてしまいますが、実際はそうではありません。さとり世代の若者の多くは、物事を深く考えているのですが、それが表に現れないのは「どうせ言っても聞いてくれない」という諦めがあるからです。
さとり世代を育成するためには、まず心の壁を取り払ってあげる必要があります。さとり世代に対する固定観念を捨て去り、真摯にその意見に耳を傾け、否定することなく受け入れてあげます。そして、徐々に「この上司は自分の意見を受け入れてくれる」という認識を与えることで、信頼関係を築いていくのです。

■ステップ2:貢献感を持たせ、小さな達成感を積み上げる


さとり世代には、「納得しなければ動かない」という特徴があります。欲がないので、昇進や昇格による収入アップなどはモチベーションの源泉にはなりません。しかし、自分の利益のためではなく誰かのために働きたいという、漠然とした思いは持っています。売上や利益などの自社都合の目標に対してはモチベーションが上がりませんが、社会貢献や地域貢献、社会的弱者の支援などに対しては、強い関心を示す傾向があります。
したがって、さとり世代の若手社員に対しては、「自分の仕事にどんな意味があるのか」「自分の仕事が誰の役に立っているのか」「わが社の事業がどのように社会に貢献しているのか」という『仕事の存在理由』を徹底的に伝え、そのことによって、自分の仕事に対する「貢献感」を持たせることが非常に重要です。一昔前のような「若いうちは何も考えずにただ懸命に仕事すれば良い」という考え方は、さとり世代には全く通用しません。
自分の仕事が人の役に立っているという認識を与えることができれば、次は仕事の中で「小さな達成感」を出来る限り数多く与えることです。
さとり世代の若者は、基本的には自信を持っていません。表面上は自信を持っているように見えても、何かを成し遂げたことによる自信ではなく、挑戦して失敗した経験がないことによる根拠のない自信であるケースがほとんどです。したがって、小さな達成感の積み重ねによって、本物の自信を付けさせてあげる必要があります。
上司は、低い設定であっても本人が申告してきた目標を尊重し、その目標が達成できた時には力いっぱい褒めてあげるのです。そして、失敗した時でも責めることはせず、失敗した原因と改善策を一緒に考えてあげるのです。
そうすることで、徐々にではありますが「自主性」が芽生えてきます。自分で考え、自らの意思で決断する土壌ができてくるのです。

■ステップ3:自主性が出てきたら、徐々に大きな責任を与える


自主性が芽生え始めたら、徐々に「責任」を重くしていきます。大きな責任を引き受けられるようになれば、人材は自ずと育っていきます。なぜなら、失敗も成功も自分の成長の糧に出来るようになるからです。
人材が本当に「一流」となるには、「修羅場をくぐる」経験が必要不可欠なのです。
誤解の無いようにしておきたいのは、「責任を与える」ことと「放任する」ことは全く違うということです。「放任」では、せっかく出てきた自主性の芽が摘まれてしまいます。実力より少し上の責任を与えて本人の自主性に任せつつ、放任することなく足りない部分はフォローするという、上司としての力量が問われる部分です。
ここで重要になるのは、本人が「納得」しているかどうかです。上司に責任を「押し付けられた」と感じられるようでは、いくら大きな責任を与えたところで、さとり世代の若手社員は動きません。
本音が言える信頼関係を地道に醸成し、貢献感の持てる仕事で小さな達成感を与え続け、ようやく「責任を与える」というステージに立つことができます。3つのステップの順番が非常に重要なのです。

お問い合わせ

ご相談はお気軽にご連絡ください。 メールは24時間365日受付しております。